2013.07.31 Wednesday
銀漢の賦、秋月記にみる、葉室麟の武士の生き様
私が、今もっとも注目している作家が、葉室麟です。
第二の藤沢周平等と言われていますね。
確かに、地方の藩を舞台に武士の生き様を描くという点では同じ方向性でしょうか。
しかし、最近読んだ二冊の葉室麟の作品、銀漢の賦、秋月記はどうもテイストが違う気がしました。どちらの主人公も、内情を知らず外から見ているだけでは、ある意味悪人とも判断されかねません。一人は病に冒され、余命いくばくもない。もう一人は藩政に隠然たる力を示し、最後は島流しに会います。
ここで、葉室麟の武士の生きる道の捉え方が見えてきます。どちらも己の信念に忠実であること。それは自分の利益ではなく、自分の藩のためという公的な義に仕えているのですが、そのためにはあえて泥をかぶることも辞さないという生き方です。どちらも彼らの犠牲の元に藩が再生、あるいは生き延びることになるので、その思いは達成されたわけですが、彼らの犠牲はあまりにも重い。生半可な正義感では心が折れてしまいそうな試練が彼らを襲いました。
実際の武士はどうだったか、それは分かりません。しかし、葉室麟は重責(重荷)を背負った人々の使命感とその苦悩との孤独な戦いを描くことで、現代にも通じる人の生き方を示しているのではないかと感じます。