弘前りんごの北のまほろば

司馬遼太郎の”街道をゆく”のタイトル”北のまほろば”に魅せられて、本州最北端の県にやってきました。日々見聞きしたこと、感じたこと、考えたことなどをつれづれなるままに綴ります。
もっと早くに出会いたかった _ 沢木耕太郎の3冊目の全エッセイ集 ”銀河を渡る” _
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    横浜国立大学を卒業して、銀行に就職が決まったのに、なんと出社初日の信号待ちしている間に、退職することに決めたんだそうです ^^;)

    それがなければ、エッセイスト、沢木耕太郎は誕生しなかった。

     

    沢木耕太郎は、旅とスポーツをテーマにしたエッセイを書き綴ってきた作家ですね。最近はフィクションの作品も発表しているようですが。スポーツならともかく、私も好きな旅なら接点があっても不思議はなかったはずですが、これまでなぜか私の視野に入っていなかった作家です。

     

    では何故今回読もうと思ったか、出会ったかですが、全エッセイ集と銘打ちながら、3冊目って何よと、大阪人としては突っ込まざるを得ないキャッチフレーズに引っかかったからに、ほかなりません ^^;)

     

    そこで調べてみると、これまでに10年毎に、一冊ずつの計2冊、それまで発表したエッセイをまとめて全エッセイ集として出してきたこと。それが三冊目は25年も時間が空いてしまって、これ以上まとめないと散逸してしまうという危機感からまとめたということがわかりました。

     

    沢木耕太郎 全エッセイ ”銀河を渡る” 新潮社

     

    そんなこんなで関わりを持ってしまったので、この三冊目の全エッセイ集 ”銀河を渡る” を読んでみようと密林に注文したというわけです。

    しかし、読んでみて、その文体への親和感が非常に高く、もっと前に読んでおきたかったと、今更ながらにちょっと後悔してしまいました。さりげない、しかし確かな目で見据えた上での的確な表現が、魅力と言えます。その目は一般のエッセイストというより、真のジャーナリストの目、真実を追い求めて飽きない精神がベースにあるのでしょう。

     

    今回のエッセイ集の巻頭の文で、若い頃の回想を綴っているのですが、それが実に印象的でした。

    まだ駆け出しの作者が初めて海外に出てその街のレストランで、言葉が通じないことに戸惑っている時に、偶然近くにいた女性が、彼に的確に、しかし押し付けがましくなく指示、示唆を与えてくれたという場面がでてきました。

    それが彫刻家、宮脇愛子だったことをその後知り、自分もかく有りたいと願ったというのです。

    その宮脇愛子もその昔、シュールレアリスト、ダダイストである彫刻家、画家、写真家のマン・レイと出会い、薫陶を受けていたのですね。

     

    マン・レイ (wikipedia)

     

    なんというか、知性の系譜というか、そういった人と人とのつながりというのが、実に素敵で、羨ましく感じました。

     

    そうそう、彼の代表作の一つに、”キャパの十字架”があります。

    あの戦争写真の金字塔的作品と言われる写真を発表して、一躍報道写真家としてスターの座に躍り出たロバート・キャパ

    しかし、その写真については、以前からいろいろと疑義が呈されてきました。

    沢木耕太郎は、その一つ一つを検証し、世界の注目を浴びたあの作品の真相を、ミステリーの探偵のごとく解き明かしてゆきます。しかし、決してその虚像を糾弾するという姿勢ではなく、祭り上げられてしまって、降りるに降りられなくなったものの悲しみに、実は寄り添うように描いています。

    そんなところにも、沢木耕太郎の真心のようなものを感じざるを得ません。

     

    今回のエッセイ集の表紙に、レオナール藤田の子供の絵(バガボンド)が使われているのも象徴的です。

     

    レオナール・フジタ バガボンド(小さな職人)

     

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    #沢木耕太郎 #エッセイ #旅 #スポーツ #宮脇愛子 #マン・レイ #知性の系譜 #ロバート・キャパ #キャパの十字架 #ミステリー #探偵 #レオナール・フジタ #バガボンド

     

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    | 弘前りんご | 文学 | 23:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
    今日10月3日は、万葉学者の犬養孝先生のご命日、そして今年は先生の没後20年
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      雄略天皇の妻問いの歌

      ”籠もよ み籠持ち 掘串もよ み掘串持ち この丘に 菜摘ます児 家聞かな 名告らさね そらみつ 大和の国は おしなべて われこそ居れ しきなべて われこそ座せ われこそは 告らめ 家をも名をも”

      から始まり、

      大伴家持の初雪を寿ぐ歌

      ”新しき 年の始の 初春の 今日降る雪の いや重け吉事”

      で終わる、日本最古の和歌集、万葉集。

      大伴家持が編纂したとされる、全二十巻、4千5百余首からなり、世界に誇れる日本の文化遺産でもあります。

       

      犬養孝先生(1907年4月1日 - 1998年10月3日)は、万葉集の歌の意味は、その歌われた場所に行ってこそ感じ取れるとの信念で、日本中の万葉故地を訪れて、万葉集解釈に新風をもたらした方です。

       

       

      http://kitamahokif.jugem.jp/?day=20130319

      http://kitamahokif.jugem.jp/?eid=2588

       

      一方、大阪大学教授時代から、その旅行に学生を伴って、いわゆる大阪大学万葉旅行会を主催され、そこから何人もの万葉研究者を誕生させられました。

       

      犬養先生行くところ必ず晴れる、という晴れ男でした。

       

      横浜第一中学校の教師時代の教え子の一人、作曲家の黛敏郎さんが司会をしていた”題名のない音楽会”に出演され、朗々と万葉の歌を読まれる姿を見て、大阪大学に入学して(理学部でしたが ^_^)、犬養先生の講義を聞こうと決めていました。しかし、うかつなことに私が阪大に入学したときには、残念ながら既に犬養先生は退官、名誉教授になっておられることをその時は知りませんでした。そのため大学での講義を聞くことは出来ませんでした。

       

      しかし退官後も、万葉旅行会の旅行に、講師として参加されていたので、一緒に万葉故地に行って、また旅行会の委員も務めたので、先生のそばで、生きた講義(お話)を聞くことが出来たことは、私のかけがえのない体験となっています。

       

      家内も、犬養先生が大阪大学退官後に勤められた甲南女子大学のゼミ生だったので、二人共犬養先生の末端の弟子と言えるかと思います ^^;)

       

      奈良白毫寺境内に建つ、犬養先生揮毫の歌碑

      ”高円の 野辺の秋萩 いたずらに 咲きか散るらん 見る人なしに”  笠金村 巻二(二三一)

      志貴皇子(しきのみこ)の亡くなられたときに詠んだ挽歌

       

      来年、関西に戻ったら、また先生の歌碑のある万葉の故地をゆっくり周ってみたいと思っています。

       

       

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      #万葉集 #犬養孝 #大阪大学 #万葉故地 #大阪大学万葉旅行会 #ご命日 #黛敏郎 #題名のない音楽会 #甲南女子大学

       

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      | 弘前りんご | 文学 | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0) |
      おかえり、という言葉を聞きたくて私は旅に出る_原田マハ『旅屋おかえり』
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        皆さん、旅の目的はなんですか?

        出張? 観光? 傷心を癒すため?あるいは何かから逃げるため? (^_^;)

        人それぞれ、そして事情によりけりでしょうね。

        でも、この原田マハの小説 ”旅屋おかえり” の主人公は違います。

        旅そのものが目的であり、生きがいの、そしてそれを仕事にしてしまった一人の女性の夢、挫折そして再生の物語です。

         

         *そうそう、オープニングに、弘南鉄道、黒石、つゆ焼きそばが出てきたのには、ちょっとびっくり (^_^;)

         

        原田マハ ”旅屋おかえり” 集英社

         

        北海道の礼文島で高校まで育った主人公、丘えりこは、高校の東京への修学旅行でスカウトされ、アイドルを目指します。

        親兄弟や島の人々の期待を担って。そして成功して、故郷に錦を飾る日を夢見て。

         

        しかし、現実は厳しく、本人曰く、才能にも運にも恵まれないため、アイドルとして脚光を浴びること無く、十数年の時は過ぎてしまいました。今は、全国を旅する旅人として出演するテレビ番組のみで生活する日々。

        そして、その番組も不運な出来事から打ち切りに。

        そんな状況で、改めて自分が旅そのものが好きであることに気づき、それを活かせる仕事の形として、前代未聞の旅屋というものを始めます。

         

        旅屋とは、故あって自分は旅に出ることが叶わない依頼人に代わって旅をして、本人の代わりに希望の体験や目的を果たして、その旅の記録を依頼者に成果として届けるというもの。それを思い立ったのは偶然の出会いから。

        またタイトルのおかえりは、家に、故郷に戻ったときに掛けられる言葉、”おかえり” と、丘えりこの愛称、おかえりをもじったものです。

         

        その旅によって、契約内容を遥かに超える成果(人間関係のもつれを解き、凍てつきを融かす)がもたらされるだけでなく、主人公、そしてそれを取り巻く人々の心までも癒やしてゆきます。

        そして成功するまでは故郷には帰れないという主人公が、故郷で待つ母のおかえりという言葉を聞ける日も間もないというところで、小説は幕を閉じます。

         

        主人公はもちろんの事、彼女を取り巻く、キャラが立っていて、また愛すべき人たちがとても魅力的だということにも触れておくべきでしょう。彼女をスカウトした、そして彼女が唯一の所属タレントである事務所の社長。見かけは強面ながら、情に熱く、ちゃらんぽらんに見えて、おかえりをしっかりとサポートしています。そんな人達に支えられて、主人公は挫折のあとに再生への道を自ら見出します。

         

        さて、原田マハの作品は、初期の ”楽園のカンヴァス”に出会って以後、その美術にまつわる、“暗幕のゲルニカ”、“リーチ先生”、“たゆたえども沈ます”、”ジベルニーの食卓”、“モダン”などなどを次々と読んで魅了されて来ましたが、実は原田マハの小説には、それとは違うジャンルの作品群があります。

        たとえば、“本日はお日柄もよく” はスピーチライターと言う仕事に情熱を燃やす女性の奮闘の物語。

        おなじ人がこうもタッチを変えてかけるものかと感心してしまうのですが。

        “旅屋おかえり”もそのひとつでしょう。

        まさにハートウォーミングな小説。読後にじんわりと心があたたまる作品でした。

        原田マハのこれまでのブログ記事

        モダン

        たゆたえども沈まず

        サロメ

        ジヴェルニーの食卓

        リーチ先生

         

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        #原田マハ #小説 #旅屋おかえり #弘南鉄道 #黒石 #つゆ焼きそば #ハートウォーミング #楽園のカンヴァス #暗幕のゲルニカ #リーチ先生 #たゆたえども沈ます #ジベルニーの食卓 #モダン #本日はお日柄もよく

         

         

        | 弘前りんご | 文学 | 06:20 | comments(0) | trackbacks(0) |
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        (弘前りんご)
        原田マハの短編小説集”モダン”は、MOMA(ニューヨーク近代美術館)を舞台にした作品集です。
        私にとって、おそらく日本人にとっても、印象深いのは、第一章”クリスティーナの世界”ではないでしょうか。
        タイトルは、同名のあのアンドリュー・ワイエスの名作から取ったもの。
        下半身麻痺の女性が、草原を這って、我が家に向かって進もうとしている光景を描いたもの。
        小説では、2011年3月11日の東日本大震災のときに、福島県立美術館にこの作品が、アンドリュー・ワイエス展のために貸し出されていて、MOMAの委員会が、作品を守るために即回収を決め、MOMAのコーディネーターの職にあった日系女性職員杏子を派遣するというストーリー。
        この作品を日本に誘致するために多大な努力を払った現地学芸員伸子と、本意は回収するには及ばないと思っても、上からの命によって福島に向かわざるを得ない杏子の心の交流を描いています。
        救いは、杏子が福島のためにワイエスの作品を近い将来、再び貸し出せるようにすると決意するところです。
        そしてそれはこの絵の、絶望的な状況にあっても、希望を捨てず前に進もうとする女性の強い意志の力に合い通じるものがあるのではないでしょうか。
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        旅屋おかえり [ 原田マハ ]
        旅屋おかえり [ 原田マハ ] (JUGEMレビュー »)
        ”旅屋おかえり”は、旅そのものが目的であり、生きがいの、そしてそれを仕事にしてしまった一人の女性の夢、挫折そして再生の物語です。

        旅屋とは、故あって自分は旅に出ることが叶わない依頼人に代わって旅をして、本人の代わりに希望の体験や目的を果たして、その旅の記録を依頼者に成果として届けるというもの。それを思い立ったのは偶然の出会いから。

        またタイトルのおかえりは、家に、故郷に戻ったときに掛けられる言葉、”おかえり” と、丘えりこの愛称、おかえりをもじったものです。そしてその言葉を聞きたくて旅に出るのです。

        旅屋の仕事としての旅によって、契約内容を遥かに超える成果(人間関係のもつれを解き、凍てつきを融かす)がもたらされるだけでなく、主人公、そしてそれを取り巻く人々の心までも癒やしてゆきます。

        そして成功するまでは故郷には帰れないと覚悟している主人公が、故郷で待つ母のおかえりという言葉を聞ける日も間もないというところで、小説は幕を閉じます。

        まさにハートウォーミングな小説。読後にじんわりと心があたたまる作品でした。
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